「はた・らく会社」代表 富島公彦氏
大手アパレル(株)ワールドを経て2001年(株)ユナイテッドアローズ入社
人材開発グループ長、お客様相談室長、人事副部長などを経て、2014年「はた・らく会社」代表に。
日経新聞、ワールドビジネスサテライト、労政時報、厚生労働省機関誌他、多くの媒体に取り上げられる。大学や各種団体、企業での講義・講演実績あり。
(明治大・同志社大・法政大・横浜市大・青山学院大・百貨店協会・SC協会・有名百貨店・大手商社・大手小売業・他多数)
-まずは中途採用についての留意点をお聞かせください
企業側から見た中途採用のメリットは即戦力として知識やスキル、人脈を持っているというところですね。逆にデメリットは企業理念、価値観、風土に馴染まない危険性があるところです。人事担当として採用する時に気をつけていた点は、第一に求めるスキルが必ずあって、「スキルが無くてもいいよ」っていう採用は無いです。
次に見ているのは、企業理念、価値観、風土に合う人物か?という点です。スキルは明確なんですが、企業理念、価値観、風土に柔軟に対応して変化できるかとなると、なかなか難しい。スキルがあっても、価値観や考え方が合わないと採用に至らないんです。不採用者から「スキルが足りなかったか?」と問い合わせがあったりしましたが、実はそこは十分足りていて、価値観が違っていたケースが殆どです。そこに人事担当は敏感で、価値観や考え方が違うと、違う山の頂上を目指して、会社の求める成果に繋がらないし、風土も乱しかねない。最終的には組織の足を引っ張る危険性もあります。
-UA時代はどうやって価値観の違いを測っていましたか?
質問の中で必ず聞いているのは、どこを目指しているのか?どういうものを大切にして仕事してきたのか? 心情的な事を含めて聞いていると、その人の価値観が見えてきます。
-柔軟性については、どうやって確認していましたか?
転職の理由や、転職にするあたってどういう思いでいるか?という質問をします。柔軟性に欠ける人は、自分の確固たるものやスキルを持っていて、それを生かすために転職するんだ、という思いが強い。そういう人に限って、その転職先の企業の事を勉強していないケースが多いです。
自社の事をどれだけ知っているか?まるっきり知らない人もいるし、あまり調べてないな、っていう人が高確率で出てきます。そういう人は自分を変える気が無くて、企業と自分の価値観が合っているかというのを全く気にしていない人なんですね。
-企業の価値観はどうやって調べたら良いでしょうか?
インターネットで検索すれば容易に探せると思うし、大手であれば書籍も出ていると思います。中途は新卒と違って会社説明会は少ないんですが、合同説明会等、あれば積極的に参加してみる。ターゲット企業のトップのブログもチェックする。トップのブログには価値観がよく出ていると思います。
あとは、ターゲット企業関連の新聞記事もスクラップする。それをやっている人は「先日、雑誌にトップのインタビューが出ていましたね?」とか面接時に話が出てくる。自分中心の人は、そういう話題は出てこない。企業の価値観に共鳴する気が無いのかな?と思ってしまいます。
-応募に来ているのに、その企業の話題が出ないのは、入社意欲自体が問われますよね?
経験上、新卒よりも中途の人の方が企業研究を怠っている場合が多いですね。
-自分の今の状態で雇って欲しいという思いの裏返しでしょうか?意識してか、無意識かわからないですが…
変われないんじゃないかな? と判断されても仕方ないですよね。
そういう人は今の会社(前職)への不満が出てくる。結局、他責なんですよ。会社が悪い。周りが悪い。つまり自分を変える気がない人じゃないですか?
ということは、次の会社に入っても同じことになるんだろうなって。もちろん、ストレートに今の会社が悪いという人は少ないんですが、明確な転職理由が無い人は、そういう可能性が高いと思ってしまいます。求人企業からの視点で見てみると、転職理由は、
- ・自分の夢とか達成したいものがあって、同じような夢とか理念を持っている人がいるこの会社が実現しやすい
- ・やりたい職種やポジションが今の会社には無いので、転職してステップアップしたいという人
- ・収入をアップしたい
- ・現状逃避
と分類できますが、先ほど話したように、現状逃避型の人は、全て他責にしてしまうので、どこに行っても難しいと思います。
それなら今の会社で良いんじゃないですか? って。転職というのは、少なからず自分を変化させる必要があり、覚悟が必要です。自分の価値観を大切にしたいのであれば、その価値観が合う企業へ転職した方が絶対に良いです。だから中途の人こそ、新卒者以上に企業を研究し、その会社は何を達成したいのか? 何を大切にしているのか? 特にトップの価値観を知るという事が大切ですね。
新卒者はゼロからスタートして会社の色に染まるという事ができますが、中途入社は既に色が付いています。最初にいた会社、長くいた会社の価値観に染まっている部分があって、それが抜けきれない。どんなに柔軟性がある人でも、能力や経験があるがゆえ、間違った方向に行く可能性があります。自分の方向性とは違う環境の中で成果を出していかなければならないのでストレスが溜まり、良い仕事が出来ない。お互いにとって不幸な結果になる。例えばマネージャーを採用したい時、より大きな組織のマネジメント経験があれば、上手くいくだろうと思うが、環境が違えば、そう上手くいかない。そんな時、価値観が合うかどうかがとても重要です。
-デザイナーやパタンナーなどの専門職の転職の場合はどうでしょうか?
一番はブランドを理解しているかどうかですね。テイストとかブランドの事を理解していて、それが好きか、自分に合うテイストなのか?というのが凄く大切です。
ブランドの世界観を体現、表現者する人なので、「そこがちょっと違うんですよね」とか、「私よくわからないんですよね」だと厳しい。
-応募者が自分の持ち味やテイストとかをどうやってアピールしたら良いでしょうか?
今は分業制になっているので、若い人だと「カットソーや布帛のデザインをやってました」「重衣料から軽衣料までのデザインをやってました」とか、全部やれる人は少ないので、それはそれで良いと思う。もちろん、「軽衣料のデザイナーが欲しい」「ドレスのデザイナーが欲しい」とか、企業側のニーズが色々あって、経験的には色々出来るのは有り難いんですが、今更言っても仕方ない部分もあるので、そのブランドのどれだけ好きか、世界観がわかるという方が優先しますね。結局そこが合わないと後々、企画で苦労します。
もちろん、後から理解する事も可能ですけど、最初から世界観に共感してくれる人は採用側にとっては安心できる。どんなアイテムが強いのか? どういうルーツ、歴史があるのか? 深いところまで分かっていて、そんなところが話せる人だと、活躍してもらえるのかな? と。今はこれくらいしかできないけど、将来的には他の事もチャレンジしたい、背景もよくわかっていて、世界観を理解した上で飛び込みたいという人なら、やらせてみようかな? と思います。
-今は殆どの企業に求人ニーズがあって、大変、人が採りにくい時代。人が採りにくい時代に企業はどういう工夫をすれば良いでしょうか?
企業は自社の理念や価値観をもっとオープンにしていかないといけないと思います。それに合った人を採用すべき、絶対に採用基準を下げてはいけない、妥協して採用してしまうとかえって苦労しますから。
中途を本気で採りたいのだったら、説明会をやるべきです。ホームページの採用ページにトップの価値観やブランドディレクターの想いを載せましょう。消費者向けにやっている企業は多いですが、採用向けに情報発信している企業は少ないです。説明会でも、新卒にはやっているが、中途にはやっていないとか。情報発信が本当に必要なのは中途向けなんです。
9月10日に上梓した「ユナイテッドアローズ 日本一お客様に喜ばれる販売員の話」にも、ビジョナリーカンパニー2からの引用で、採用とは同じバスに乗る仲間を選ぶ事と書きました。
つまり同じ価値観で同じ目的地へ向かう長距離バスに乗る人を乗せる時に選ぶ。このバスはどこ行きなのか? をお互いしっかり確認する。中途の人は、新卒ほど就職活動に時間が掛けられない中でお互いに価値観を合わす工夫をしなければいけません。私の場合、当時のワールドからUAへの転職は、価値観が似ていて違和感は無かったですが…
現在では、セレクト業態からセレクト業態への転職は比較的上手くいくでしょうね。ものづくりの価値観がセレクト同士で非常に近いものがありますから。
理念や風土的に近いのは、新卒の話になりますが、スターバックスでのアルバイト経験者が組織に馴染みやすかったですね。過去はマクドナルドでのアルバイト経験者でしたけど、「お客様のために」というのを全面に出している企業経験者とは相性が良いです。
-大手アパレルメーカーからセレクトへの転職成功例を教えてください。
企画をずっとやってきたけど、これからはお客様を強く意識して、UAみたいな会社でステップアップ、キャリアアップしたいという人が活躍しています。
アパレルメーカーのプロダクトアウト感覚そのままで転職すると、物凄くマーケットを意識させられるので苦労されています。よく企画で転職してきて能力を発揮している人に聞くと、UAは宝の山ですね!と言われます。お客様情報の管理が充実していて、これをいかに活用して、ものづくりをしていこうか、という人が成功しています。お客様の半歩先を行って、ものをつくっている。
今のSPA型のアパレルがやっている事は、現状市場に出したものの中で、売れる売れないの優先順位をつけている。市場に出ていないけど、お客様が潜在的に求めているもの、本来そういうものを創出していくのがアパレル企業の役割ですが、そこを怠ってしまっています。
UAは店頭のスタッフがそういったお客様の潜在ニーズを引き出す能力が備わっているので、そういう情報がたくさんあるんですね。それを生かしたものづくりが出来るのが、優れたブランド責任者や企画、MDだと思います。前年売れたものは、外したくないという前年踏襲型になると、前年並みに売れる事があっても、前年以上に売れる事はない。新しいことをやるのが怖いという人は、活躍出来てないですね。
-応募者が気をつけないといけない事。面接時のポイントやアピールの仕方を教えてください。
もちろん、経験してきた事やスキルを説明する事は重要です。それ以上に重要なのが、どれだけその企業を理解して、その企業のこういうところが好きで、自分の価値観との共通点が説明できる事。そのためには企業研究が必要ですし、その企業が大事にしている価値観を知らなければいけない。自分の価値観としてやりたい事と実現したい事が合っている、シンクロしているところをちゃんと話す事が大切です。
-応募動機を整理しておく事ですね?
そう、意外と中途の人はそこを端折る場合がある。新卒の人は心底思ってなくても「御社の理念に共感して」と言います(笑)
理念や価値観と自分のやりたい事、実現したい事が合っていると説明すべきです。
-退職理由、転職理由、応募動機で採否を判断する割合は?
結構なウェイトを占めていると思いますね。というか絶対条件ですね。能力だけで採ってしまうと失敗する確率が高いです。能力の高い人は、喉から手が出るほど欲しいけど、それだけでは、企業は採ってはいけません。実際は、採ってしまう会社が多いんですが、結局、定着率が悪く、失敗します。
UAは安易に採らない会社です。組織風土もそうですが、価値観と似たところがあって、きちんとお伝えしておく必要があります。
例えば、UAだと「店頭が物凄く強いですよ」とお伝えします。特に企画系の人には、それを言っておかないと、入社してから違和感を感じます。他のセレクトだと、オーナーや創業期のメンバーの想いが強いとか。あとは、中途の人の場合は、面接した人や部署の人とウマが合うかどうかというのが大切ですね。なるべく、こちら側から盛り上げるのですが、求職者の方からも盛り上げて欲しいですね。真面目とか、礼儀正しいとかは、当たり前の世界なので、決め手にならないですから。「面接じゃないくらい話が盛り上がったね」というくらいが採用に至っています。
-そのために応募者はどうすれば良いですか?
会話するときに、面接官の言葉を拾って、関心を持っている姿勢を示していく。逆質問も良いのでは?
質問に対して質問する質問返しはダメですが、興味を持って聞くのは良いと思います。
会話のキャッチボールが上手く出来れば合格が近づくと思います。質問が無いのが一番ダメで、関心が無いのか? 不勉強なのか? と思ってしまいます。この人と仕事したいな、と思う人は、多少能力に目をつぶってでも採りたいものです。
-書類選考が通らない、面接の土俵に乗れない人に対してはどうですか?
例えば、年齢のニーズがあるとするなら、あと何年働けるか?という計算では無くて、組織構成上のポジションが決まっている場合が多い。年齢が上でも、柔軟さがあったり、採りたいな、っていうサムシングが必要。年下の上司の下で上手くやれる人というのを伝えるのが必要です。
人事は薦めるが、最終的には、採用部署の責任者が「この人なら」って思うしかない。一般論で言うと、責任者は、年齢が上で能力も高く柔軟性もある人なら、いずれ自分のポジションを脅かすのでは? と考えて上手くいかないケースもあります。
明らかに「この人良いよ」という人でも難癖つけて、採らない傾向がある。その企業が、ポジションを脅かされるような人を採らない大企業病に陥ってる場合、少し順番を飛ばして上層部に会うと話が進むかもしれません。
-なかなか個人では難しい動きです。そこは正に我々、転職エージェントの仕事ですね。他にアドバイスはありますか?
一般応募で正面玄関から応募しても、書類選考が通過しない可能性があるので、エージェントにセッティングしてもらうのは良い選択だと思います。先ほど、申し上げましたように、若い管理職ほど年上の部下を採らないものです。
また、視野を広げて、アパレル業界での経験を他業界で生かしていく事も検討すべきだと思います。他業界からでアパレルをネット通販で取り扱う企業も増えてきています。そういった企業では、アパレルに精通した人のニーズが必ずあります。
本物がわかる人が入るだけで、成長スピードが変わってくると思います。意外と百貨店なんかにもSPA関連業務でニーズがあります。転職先の業界を広げて考えてみてはいかがでしょうか?
-本日はありがとうございました。
インタビュアー:原田智也