企業が退職者に同業他社への転職を一定期間禁じる「競業避止契約」について、司法判断に変化が出ている。
事例として派遣会社が元従業員のシステムエンジニアに課していた転職制限を「無効」と判断した2022年の東京地裁判決がある。
派遣会社はエンジニア退職時に競業避止契約を締結。1年間は派遣先、その関連企業、競業他社への就職を禁じ、自社と競業する起業も禁じた。違反した場合給与3ヶ月分と派遣会社が被った「一切の損害」や調査費用、訴訟費用まで弁償。ここで東京地裁は、競業避止契約の「目的・利益が明らかでない」と指摘し、さらに転職禁止先の範囲や賠償の対象が広すぎると判断し「制限は合理的制限を逸脱し、公序良俗に反する」と結論付けた。
この契約の公序良俗の判断は、①元の在職企業に競業避止を主張する正当な理由があるか②退職者が営業秘密や事業ノウハウに触れうる地位にあったか③就業制限の範囲・期間は妥当か④制限に対する金銭面などの代償措置の有無と内容の4要素が考慮された。企業が退職者の転職制限をすることについて、しっかりした理由があるかを厳しく審理する傾向が強くなっている。
また、転職制限の期間と範囲も必要最小限にすることが求められている。このように企業側からの説明を慎重に確認し、できれば締結を避ける話に持っていくことを望む
文/島崎淳 (Jun Shimazaki)