高卒新卒の採用をスタートして7年になる
初年度の10名ちょっとの採用から、今年度は100名採用が見えてくるまでの規模になってきた
採用率も10%から80%台まで大きく伸びた
配属先のアパレルメーカーが拡大したのと、研修やフォロー体制の充実により、採用力が上がったのが大きい
これは営業社員やコーディネーターの努力の賜物
ここで各方面からよく聞かれる採用基準について触れておきたい
「現場に配属した時に著しく辛い思いをしないかどうか?」
温情で採用しても、現場に慣れるのに時間がかかり過ぎてしまいそうな子は、かえって辛い思いをさせて、最後は現場から交代の要請
もちろん次の現場は責任を持って用意するが、もう心が萎えている
フォローしている側も心が痛む…
何度もそういう場面に直面して来たので、社内ではその基準で採否を討議している
その基準は私の経験もベースになっている
梅田に来たら必ず前を通って存在を確認するビル
場所はDDハウスとがんこ寿司の横あたり
以前は何年も前を通るのを避けてきた
テナントは何回転も入れ替わったけど、ビル自体は昔のまんま
35年前
高校に入学した直後、15歳の春に初めてしたアルバイト
当時は300円くらいしたアルバイトニュースを駅の売店で買い、飲食店の求人を見つけて応募した
多分、電話で面接予約もせずにいきなり履歴書書いて持って行ったと思う
その飲食店は60歳過ぎの夫婦で経営されているこじんまりした料理屋さん
今回の求人は長年勤めてきたアルバイトの人が大学卒業で辞めたのでその穴を埋めるためとの事だった
アルバイトの主な業務は近くの雀荘から依頼が来る出前の対応
オーダーはほぼ親子丼かカツ丼
オーダーを受けると親子丼やカツ丼の卵とじを作る工程を任せたいとの事
食べもん屋の息子なので「それぐらい出来るやろう」と思った
採用されて、早速、次の日から出勤になった
勤務は18時から23時
出勤した瞬間から出前の電話がガンガン鳴り出す
親子丼やカツ丼のオーダーがドンドンたまっていく
めちゃくちゃ忙しい
店主と奥さんも手伝ってくれる
この工程は大学生のアルバイトは一人でこなしていたみたい
二人とも心配そうに見てる
「早く一人でできなあかんな」と心の中でつぶやく
足手まといになっていると思いながら、地下鉄谷町線の最終電車で家路につく
次の日も、また次の日も上手くさばけない…
雀荘への出前は速さが勝負
週末ともなると店内も忙しくなるので経営者夫婦も出前の手伝いが出来ない
いつもにも増して出前のオーダーがどんどんたまっていく
雀荘から出前の催促の電話
「あかん、もう逃げ出したい…もうオーダーストップして…」
じゃんじゃん催促の電話が鳴ったけど、何とか終わった
強烈な疲労感の中、着替えて帰ろうとした時
店主から
「原田くん、これ1週間分の給料。ちょっとだけ多く入れといた。言いにくいねんけど、君にはまだこの仕事は無理や。ごめんやけど今日で終わりにしてくれるか。ごめんな。お疲れさん」
今思えば後にも先にも人生唯一の解雇
帰りの電車は情けなくて自然と涙が出てきたな
わずか15年とはいえ、積み上げてきたほんの少しの自尊心とか自己肯定感が崩れ去ったというか
それから何年もビルの近くを通るだけで胸が痛んだ
アルバイトでも10代の頃に「必要ない」って言われるのは、それくらい重たい
自尊心を取り戻してからは、近くを通った時にわざわざ見にいくようになった
自分の立脚点を確認する心理だと思う
でも、それはその後の人の出会いに恵まれていたからで、そんな経験はなるべくしない方が良い
料理屋さん夫婦は、「大丈夫かな?」と思いながら、温情で採用してくれたと思う
私が店を去った後、採用に慎重になったのではないか?
優しさが返って悲しい結果を招いてしまったから
これが私の採用基準のベースになった